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バッハ・コレギウム・ジャパン「ヨハネ受難曲」

クラシック2014-03-10 17:44

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3月9日、ミューザ川崎シンフォニーホールで行われたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)による「ヨハネ受難曲 BWV245」を聴いてきました。指揮・チェンバロに鈴木雅明氏、エヴァンゲリストにゲルト・テュルク、ソリストにジョアン・ラン、クリント・ファン・デア・リンデ、ペーター・コーイほか。

何度かブログで書いた通り(『バッハからの贈りもの』 | EPX studio blog)、私が初めてJ.S.バッハの受難曲を聴いたのはつい最近、というか今年に入ってからのことで、もちろん生のコンサートで聴くというのも今回が初めて。
これまでCDで聴いたのは、ヘレヴェッヘとコレギウム・ヴォカーレによる旧録音(1988年、Harmonia Mundi)だけで、あとはYouTubeとか。敢えてリンクは張りませんが、BCJによる2000年の同曲のサントリーホールでのコンサート映像が全編上がっていて、これがものすごく素晴らしかったです。なんというか…ぜひ検索してみてください。私は今度ちゃんとDVD探して買おうと思っています。

さて、このコンサートは、4月に予定されている「マタイ受難曲」との前売りセット券が出ていて、事前に会場で購入しました。一番安いC席なんだけど、これがミューザ川崎の好きなところで、ブロックでいうと2LAというステージ後方、両翼の最前列の位置から観ることができる。合唱よりも後ろ側だし、定位も普通じゃないとはいえ、オーケストラに加わったような臨場感はなかなか面白いです。
何より、この席だと指揮者の表情がよく見えて、どのパートにどのタイミングで何を指示しているのかがハッキリと分かる。さらに今回で言うと、オルガンの鈴木優人さんと手つきや、イエス役のバスの浦野智行さんの表情(写真左に見える、専用の台に進み出て歌う)がよく見えたのも嬉しかったです。

第1部と第2部のあいだに20分の休憩を挟んでのプログラム。少し驚いたのは、映像で観た2000年の演奏よりもずっとテンポの速い、キレのある演奏だったこと。いくつかの録音などを聴いた印象では、全体的にゆったりと、宗教的セレモニーのような静かな熱量の演奏がBCJの特色だと勝手に感じていたので、ましてや受難曲を、こんなに生き生きと躍動的に表現するなんて!

器楽はもちろんのこと、声楽の美しさに圧倒されました。エヴァンゲリストのゲルト・トゥルクさんは、映像で観た14年前よりもずっと年をとっているように見えたけれど、レチタティーヴォにおける声の美しさや安定感はまったく変わっていなくて、すごく感動した。なんでもBCJの2014年度チラシによれば、4月のマタイを最後に引退すると宣言されているそうですが、もし本当なら残念です。

声の素晴らしさといえばソプラノのジョアン・ランさんで、広いホール全体に響く圧倒的な声量と透明感が印象に残りました。特に第35曲のZerfließe, mein Herzeで、フルートとオーボエ・ダ・カッチャの上に静かに浮かび上がるような旋律。イエスの死のシーンに続いて、不思議と明るかったり勇壮な曲がいくつかあったあとで、初めて直接的に悲しみを表現している曲。

ヨハネの特長である合唱は、どれも良かった。コンサートのいいところは、頑張って集中して聴き分けなくても、複雑な多声音楽が視覚的に体感できるところだと思いました。私は第11曲のコラールがすごく好きで、対訳と併せて聴いていて実感できたのは、歌詞の1番はイエスの無実を、対して2番は自らの罪深さを明確に対比させているんですね。なんか、まだこのあたりは全然序盤なのにジーンと来てしまった。
そういえば、今回の公演は「日本語字幕付き」とあって、どうやるかと思ったら、ステージの左右、それから自分のようなステージ後方側の聴衆向けに、ステージ対面の奥に電光掲示板が設置してあって、タイミング良く字幕が切り替わる仕組みでした。安い席なので字幕は諦めていたけど、良かった。そしてつくづく、これを母語のドイツ語で楽しめるドイツ人が羨ましいなあとも。

でも合唱という意味では、コラールもいいけど、掛け合いとして出てくるユダヤ人の執拗な罵声がなんとも印象的です。「ユダヤの王万歳!」と辛辣な皮肉を浴びせかけるシーン、そしてもちろん、「十字架につけろ(Kreuzige)」「殺せ!」と叫ぶシーン、そのどれもが残酷かつものすごく美しく表現されていて、それだけにグサグサと刺さる。つまり、こういう過ちというか人間のダメさ加減はまったく他人事ではなくて、自分がダメ人間であることを実感すればするほどリアルに感じられて重いというか。

休憩込みで正味2時間半弱のコンサート、すごくあっという間に感じました。マタイに比べて、ヨハネはお話の要点がコンパクトにまとまっていて無駄がない、膨大なエネルギーが凝縮されているというイメージ。そして、白髪を振り乱して指揮をとり、そのままの勢いで自らチェンバロでコンティヌオを弾く鈴木雅明先生のエネルギッシュな姿がまた格好良かった。感動しました。

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