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作家の狂気『Indie Game: The Movie』

ゲーム2013-12-26 18:50

前から気になっていた映画『Indie Game: The Movie』を観たので、感想ちょこちょこと。アメリカとカナダにおける、インディーズ(ここでは日本の慣例的に複数形で)のビデオゲーム開発の現場を捉えたドキュメンタリーで、2012年の作品。
国内では現時点ではソフト化されていなくて、ダウンロード版として、日本語を含む多言語字幕付きのものを購入できます。題材が題材だけに、Steam経由で買うことができるのがおもしろいところで、たまたま年末セール中で4.99ドルだったこともあって。

いや、これは良かったです。感激しました。ゲーム開発のみならず、あらゆる創作活動に通じる作家の狂気がありのままに描かれていて、恐ろしくも感動的でした。

本作では、『Super Meat Boy』、『Blaid』、それに『FEZ』という3つのインディーズゲームタイトルと、それぞれの作品の開発に携わった作家を取り上げています。といっても、開発の過程を追った、いわゆるゲームの作りかたを説明するような内容ではまったくなくて、映像のほとんどは開発者へのインタビューのみで構成されている。それは、まさに開発途中であったり、トラブルにぶつかる瞬間であったり、リリース当日であったりという色々な場面なのだけれども、基本的にはその時その時の悩みや思いというものを、開発者自身が吐露する。

冒頭ではまず前提として、海外においてインディーズゲームが今、どういう位置づけにあるかが紹介されます。大企業が膨大な予算を費やして制作する、いわゆる大作ゲームに相対するものとして、少人数・低予算で開発される作家性の強い作品が、インディーズゲーム。ここ数年で流通システムが激変して、Steamというダウンロード販売が可能なゲームプラットフォームができ、それを追いかけるようにXBOX、PS、Wiiといったコンソールも同様のサービスを始めたことで、アマチュア作家にも門戸が開かれるようになった形ですね。

本作で取り上げられる3作品の開発者は、いずれも一筋縄ではいかない人物ばかり。幼少のころからグロテスクなモンスターの絵ばかり描いて教師に精神科の受診を進められたり、あるいは、初めてのコンピュータで作った作品が、高速で点滅するCGを間近で凝視するだけというヤバイものだったり。基本的に、まわりの人間とふつうのコミュニケーションができない人たちなのです。
そして、彼らがなぜゲームを作らなければならないか、ゲームを作る以外には何もない人間か、ゲームを完成しなければ死んでしまうかが、淡々と語られる。それは、単に経済的な事情というよりは(もちろんそれも大きいのだけど)、もっと生に対して逼迫した、芸術家、表現者としての焦燥のように思われるものでした。

1人2人だけで、数年間にわたってひとつのゲームの開発に携わるというのは、ほとんど世捨て人のような生活にならざるを得ない。同居している妻ですら、コンピュータに向かう背中しか見れないような。しかも、本人は作品に近づきすぎて、自分自身でもそのゲームが面白いのか面白くないのか、価値ある作品かどうかが麻痺して分からなくなる。
自信を持ちたい、評価されたい、けれどもささいな批判で心が折れてしまうナイーブなところも正直に描かれていて、リアルでした。

とりわけ、『FEZ』を開発したPhil Fishは相当にひねくれている。彼は2012年のGDCで「今の日本のゲームはクソ」と発言したことで騒がれた人物でもあるのですが、本作を観ればこれは別に差別的な意見でも何でもなくて、彼は実はアメリカの大作ゲームも等しくクソ扱いしていることが分かる。物事をうまく進めることができず、仲違いしたかつての共同経営者と権利でモメて、作中で「殺してやる」とまで言っている。まるでロックスターの自伝のエピソードを見ているよう。

「日本のゲームは最低」 波紋を広げたゲーム開発者の発言  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO39919920X20C12A3000000/

しかし、そうした血気盛んな振る舞いが、実は尋常ならざる『FEZ』への執着、狂気と言ってもいいほどのゲームへ愛に基づく、筋の通ったものであることが分かるのです。実際に『FEZ』をプレイすれば、彼自身として世に出たこのゲームがいかに「心優しい」「愛に溢れた」作品であるかが、実感として理解できました。
そもそも、作家やアーティストに対して人間的に品行方正であることを求めるほうがおかしいのであってですね。私自身は、この発言の意図を汲んだうえでPhil Fishに大いに賛成です。言いかたは侮辱的に映るかもしれないけど、続くゼルダについての言及を聞くともっとよく分かる。

Phil Fish「日本のゲームはクソだ」 - ニコニコ動画:GINZA
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21461477

それはともかく、今年になってにわかにインディーズゲームに興味が出てきた自分にとってはかっこうの題材で、映画としてもきちんとドラマがあって見応えがありました。自分も絵を描いたり曲を作ったりするけれども、ひとつの作品にかける時間はせいぜい数週間で、(魂を込めて作ってはいるものの)生死がかかったりしているわけでもないので、ちょっと、数年にわたり一対一で作品に向き合うという孤独、失敗すればすべてを失うという恐怖は、想像を絶するものがあります。これが狂気でなくて何なのかと。

こちらのレビュー記事にも共感しました。

インディーゲーム開発に携わるということと、我々が払うべき敬意。『Indie Game: The Movie』感想 | NYDGamer
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/10/indie-game-movie.html

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