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Yousuke Kaga (Fountain Music) 聴いたことのない音楽との出会いが、自分の世界を拡げてきた

アンダーグラウンドで活動するテクノDJ・アーティストにスポットを当てる、リレーションズ・インタビューの第3回は、今年6月に初のアルバムリリースを果たした現役大学生クリエイター、Yousuke Kagaこと加賀くんの登場です。

音楽を「聴く」ことと「作る」ことを、自然に、並行してこなしてきたという彼が語ってくれたのは、若い世代としては意外ながら、データよりもCDという「モノ」への強いこだわりでした。彼ならではの音楽との接し方とも深く関わっている、その理由とは?

残り少ない学生生活を前に、今、考えていることを聞いてきました。

(2008年9月、早稲田にて)

Yousuke Kaga
1984年生まれ、千葉県出身。中学時代に『beatmania』でクラブミュージックと出会い、2000年、高校入学と同時に作曲を始める。以後、インディーズ音楽コミュニティサイトmuzieにて頭角を現し、都内各所にてライブを行う傍ら、早稲田大学テクノサークル「多重録音芸術研究会」に所属し、精力的に活動する。2008年に国内のアンダーグラウンドレーベルFountain Musicより、"Alive"でデビュー。ハードテクノからテックハウスに至るフロアユースの4つ打ちトラックを得意とし、今後の更なるリリースが期待されている。

1.テクノを聴き始めたきっかけ2.制作環境について3.音楽メディアの変化について4.趣味のこと、音楽のこと

1. テクノを聴き始めたきっかけ

聴いたらどういう音楽でも作りたくなる

Yousuke Kaga

これさ、80年代生まれは初めてなんだよ。何年生まれだっけ?

84年です。

やっと80年代来た!っていう(笑)。僕も80年なんだけど、テクノって、きっかけの話になると結構世代の違いが大きいから、いろんな世代の人に話を聞きたいんだよね。
加賀くんは、最初の音楽体験は何だったの?

最初は、もともと母親がクラシックピアノを弾いてて、音大でピアノ習ってたんですよ。で、ちっちゃい頃からクラシックはたぶん耳には入ってたと思うんです。あと、親父はジャズを聴いてて、2人とも共通するのはジャズとフュージョンかな。

思いっきりアコースティックだったんだ。

最初に耳に入ってきたのは、そういう音楽でした。まだ小学校に入る前とか。それから兄貴の影響でポップスも聴いてたけど、自分から聴く感じじゃなかったですね。

最初に買ったのは?

中学のときで、SUPER BELL"Z※1っていう、秋葉原の車掌DJのやつで…

えっ!ちょっと待って、あれ中学の時?うわ、その世代かぁ。

中2ぐらいの時でしたね、確か。こいつらヤバイ、とか思って(笑)。で、アルバムを買って、中学のときはまだそれしか聴いてなくて。
その頃か、それよりちょっと前にビーマニ※2があって、『2ndMIX』っていう割と初期のをゲーセンで友達とやってたんですよ。そのビーマニで聴いたハウスも良かったんですけど、909のハイハットの音がすごいかっこよくて。
あれの良かったところって、全然知らなかったクラブミュージック、テクノとかハウスとかヒップホップとか、何でもいろんなジャンルがごった煮で入ってたところなんですよ。それをずっと聴いてたら、「こういう曲を作りたいな」と思うようになって。高校のときにローランドのミュージ郎を買って、作曲を始めました。

やっぱミュージ郎なんだ。ちなみにその時の音源って何だった?

8850※3です。

8850、じゃあもう結構いいやつなんだ。

そうです、みんな88Proとかで。貯金が使わないで結構あって、それをはたいて。

パソコンはもう持ってたの?

パソコンは高校に入ったときに親が買ってくれて。2000年の4月で、ミュージ郎と同時期ですね。
で、そこからCDを買うようになったんです。いろんなジャンルの作曲法みたいなMIDIのやつがあって、それに「テクノだったらこの人」みたいな、なぜか"Anasthasia"とかあったり(笑)。あとAdam Fとかがあったりして、そういうのを買い漁ってるうちに、ビーマニとは離れてクラブミュージックを聴くようになっていきました。バイトもしてなかったので、月に1枚買えるかな、みたいな感じで。

このアーティストだから、みたいな買い方をし始めたのは誰から?

それは、確かGTSですね。それもビーマニに入ってて。最近はもうあまり買ってないんですけど、ファーストから途中のカヴァーアルバムくらいまでは全部揃ってます。

最初はハウスだったんだ。

で、それを聴いてたらAvexがトランスを持ってきて。それにどっぷり浸かって。

2001年くらいだね。

「サイバートランス」の時代ですね。でもその頃なぜか、それとは別に、Nukleuzとかのハードハウスを聴いてました。Nu-NRGとかも。

その時はクラブには行ってた?

行かなかったです。なんか怖いイメージがあって。

そうだよね、その頃はもうIDチェックも厳しくなってて、高校生が入れる感じじゃなかったよね。

あの当時、友達がサイバートランスの初期のアルバムかなんかを買って、あれに確かヴェルファーレのサイバートランスのイベントのチケットが入ってて、あれで、俺の友達は行ったんですよ。夜通しはちょっと親に怒られるとかで、ちゃんと帰ったみたいなんですけど(笑)。でも俺は行けなくて、いいなーと思いつつ。

そうなんだ。加賀くんがトランス、っていうイメージはあんまりなかったんだけど、その時は作る曲もトランスだったの?

その時はトランス作ってましたね。

でもミュージ郎でトランスって結構大変じゃない?あの音出ないじゃん、やっぱりさ。

それ、すごい悩んでて。muzieにそれっぽいのを作って上げたら、なんか「めちゃめちゃ音が軽い、全然違う」とか言われて酷評されて、ちょっとヘコんだ(笑)。あのすっごい太いノコギリ波の、SUPERSAW※4とかが出なくて。

作曲のことは後で改めて聞きたいんだけど、その後はどういう音楽を聴いてたの?

2003年に大学に入ってから、大学のサークル「多重録音芸術研究会※5」に入ったら、みんないろんなの聴いてて、自分だけトランスしか聴いてないみたいな。空気的には、あーなんか間違ったやつが入ってきちゃったなー、みたいな目で見られて(笑)

大学のテクノサークルの子なんて、Avexとかちょっとバカにしてる感じあるよね(笑)

それで、全然違うなぁと思いつつ、色々聴かせてもらったりして。先輩のDJでプログレ(プログレッシブハウス)やってる人がいたんですよ。キレイな音はトランスに似てるんで、最初はプログレ聴いてました。

アナログには全然行かなかった?

そうですね。DJをもともと志望してたわけじゃないんで、作曲の方に力を入れてましたね。大学に入って、新たに機材を買い直して。NovationのKS4ってのと、KorgのTRITON。

すごい、いきなり行ったね!

いきなり行っちゃったんですよ。両方とも新品で。
聴くほうでは、エレグラでアンダーワールドを見て。それから、2004年のWIREに行く前くらいにクリスチャン・スミスのWombのミックスCDを聴いて、すごいかっこいいと思って、そこからだんだんハードテクノに移行していきましたね。クリス・リービングのCDを買ったりして。その頃はバイトもたくさんしてたから、一番CD買ってました。

どこで買ってたの?

渋谷、新宿、御茶ノ水だったり、柏とかも。あとはよく分からない古本屋で探したりとか。意外と、なんでこんな所にあるの、みたいなのありますよね。トマシュー(トーマス・シューマッハ)の"Perlen 2"ってミックスCDが、ゲオで中古300円で落ちてて「は?」とか思って(笑)

そのあと加賀くん、Akufenとかハマってた時期あったよね。あれはリアルタイム?

ちゃんとタイムリーに聴いてたわけじゃないんです。ディスクガイドみたいな本、『200CDテクノ/エレクトロニカ』っていう青い表紙の本と、『テクノ:バイヤーズ・ガイド』を買って、青い本のほうにAkufenが載ってたんですよ。

こうしてみると、流行っているものは確実に押さえつつ、自分の好きな音を探ってる感じなのかな。それって、作っている曲にも反映されていくの?

というか、作る曲がだいたい誰かの真似なんです。

でもそれって大事だよね。特に加賀くんの場合、どれかひとつのジャンルにハマってそればっかり、って感じじゃないもんね。テクノをかなり幅広く捉えていて、そのなかで「いい」とされているものは、変な先入観を持たずに、チェックしていくっていうスタンスだよね。

テクノだけじゃなくて、ロックとかも、友達に薦められたら聴くし、このアーティストのこれが好きっていう聴き方が多くて。あまりジャンルに捉われず、知らない曲とか知らないアーティストは多いですけど、そういう聴き方ですね。

かなり雑食系というか、ちょっとでも引っかかりそうだったら聴いてみようっていう。小さい頃に電子音楽に触れて、そこからテクノ一直線という人は多いけど、それとはかなり違うよね。珍しいパターンかもしれない。
逆に聞きたいんだけど、聴いたことないジャンルってある?

民族音楽とか、古いのとか、現代音楽とか、挙げたらキリがないですよ。

で、そういうものに対する興味はある?

あります!

作曲理論とか、音楽史とかっていうのは。

見て、へー、こんなのあるんだとか思いつつ、でも自分はできないからと思って。聴いて気持ち良いか良くないかって方が先ですね。

加賀くんが聴く音楽が、作る音楽に反映されるというのはよく分かったんだけど、本当に聴くだけの音楽と、聴いて作ってみたい音楽の違いはあるの?

だいたい自分の場合は、聴いたらどういう音楽でも作りたくなるんです。作れるものなら何でも作ってみる、みたいな感じです。

じゃあ変な話、大学も音大とかに進んで作曲の勉強をしていたら、もしかしたらアコースティックの作曲の道に進んでいたかもしれないよね。シンセとシーケンサーがあったから、テクノとか、エレクトロニックミュージックの方に進んだのであって。
少し話が戻るんだけど、作った曲を発表するのにネットを使い出したのはいつぐらい?もう最初にパソコン買ったときから?

そうですね。

ホームページを作って作品を発表したりとかは。

してなくて、最初は、MIDIのコミュニティで「音楽の泉」っていうのがあって、そこに投稿してました。それからmp3が中心のブロードバンドの時代になっていくと、muzieですね。

  • ※1 SUPER BELL"Z99年デビューした日本の音楽ユニット。鉄道の車内放送とテクノポップをマッシュアップした『モーターマン』がヒットした。
  • ※2 ビーマニ『beatmania』。DJをモチーフにしたコナミのアーケードゲームで、リズムアクションゲーム、いわゆる「音ゲー」の代表作。シリーズを重ねるごとに、多くのプロのクラブミュージックアーティストが参加し、特に『リッジレーサー』以降の世代では、このゲームをきっかけにテクノを聴き始めたという層も少なくない。自作曲でオリジナルゲームデータを作成する「BMS」も、ネットを中心として一つのムーブメントとなった。
  • ※3 8850Roland SC-8850。同社のDTM音源モジュールであるSCシリーズのハイエンド機。DTMのスタンダードがMIDIからDAWに移行する最後の世代の「ミュージ郎」に同梱された。
  • ※4 SUPERSAWローランドの一部のシンセに搭載されている音色の一つで、ピッチをずらしたノコギリ波を7つ同時に発音する。JP-8000に初めて採用され、これにより実現した分厚いシンセリードが特にトランス系のアーティストに支持された。現在は、SH-201などエントリーモデルのシンセのオシレータにも標準で搭載されている。
  • ※5 多重録音研究会早稲田大学のテクノサークル。昨年の「早稲田祭」連動企画としてWebに掲載された宇田川町レコ屋ガイドは、いくつかの店が閉店してしまった今も一見の価値あり。通称「TRK」、「多録」。サークルのブログはこちら

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2. 制作環境について

FLが一番分かりやすくて好き

さっきちょっと機材の話が出たけど、今はどうかな。TRITONはまだ現役?

現役ですけど、あんまり使ってないです。

ソフトシンセは?

FL※6内蔵の、3xOscっていうソフトシンセだけです。

シーケンサーは最初からFL?

最初はミュージ郎に付属していたSinger Song Writerで、これはMIDIを打ち込むときは今でも使ってます。TRITONを使いたいときとか。でもほとんど今はFLと、サンプリングCDだけですね。

ハードシンセはKS4とTRITON以外は買い足してないの?

そうですね。ハードテクノだとリズムがメインになるので、音数もリズムの方が多くなるから。

シンセ買うんだったらサンプリングCDの方が、みたいなことだよね。じゃあ今はFLメインで、ほとんどPCだけで完結していると。

そうです。

ハードのシーケンサーには興味なかった?

友達の機材を触らせてもらったりとかはあったんですけど、自分はやっぱりパソコンでやってる方が好きだったんですよね。そっちに回すお金もなかったし。制作環境は最低限で、その分CDを買うほうに使ってました。

今後はこういう環境にしていきたい、というのはある?

できればもっときちんと揃えたいんですけど、口癖のごとく、お金がないので(笑)。あとは、なんだかんだ言ってFLが一番分かりやすくて好きなんですよ。

じゃあ今の環境でやりたいことは大体できてるんだ。

時々やっぱり物足りない時はありますけど、だいたい十分かなとは思います。

モニター環境についてはどう?

今はほとんどヘッドフォンで、テクニクスのDJ用のヘッドフォン。スピーカーはDENONのMD/CD再生のコンポのやつで…。

えっ!テクニクスのDJ用でモニターしてあの音なの!?すごくない?あれって当然ローとハイが強調されるんで、作ってるときは気持ちよくても、普通は物足りない仕上がりになるよね。仮にサンプリングCDで元の音が良かったとしても、最終的にはミックスのバランスが要求されると思うんだけど、とてもその環境でモニターしているようには聞こえないよ(笑)

でも、あんまりそのへんを意識して作ったことはないんですよね。

えー、ショックだわー(笑)。それはすごいよ。普通なら、みんなスタジオ用のヘッドフォンを薦めると思うんだけど、それであのバランスが変わっちゃうんだったら、敢えてそのままのほうがいいのかな。きっと、普段CDを聴くときもそのヘッドフォンで聴いてるから、頭のなかのそのイメージに近づけていけばいいということなのかも。

でも最近は耳を痛めるのが怖いので、曲を作るとき以外はなるべくヘッドフォンで聴かないようにしてますよ。

  • ※6 FL『FL Studio』。ベルギーのImage Line社による統合制作環境で、他のDAWソフトウェアと同様、デフォルトで多くのプラグイン・エフェクトとソフトウェアシンセサイザーが同梱されている。分かりやすいUIと比較的安価な価格設定により、熱心なユーザーも多い。当インタビューでは、第2回に登場した岡田氏も愛用しているとのこと。

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3. 音楽メディアの変化について

データはデータ。触れることに意味があると思います

Yousuke Kaga

レコードよりもやっぱりCDが多いんだよね。

そうですね。で、あんまり手放したくないんですよね。愛着があるというよりも、見てうっとりする(笑)。ある日突然聴きたくなって、それを売ってしまっていると、もう寝れなくなるので、それは部屋の狭さを代償に。

どこで一番買ってるの?

中古ならユニオン(ディスクユニオン)とブックオフですね。新品はタワーレコードかHMV。アナログはやっぱりユニオンです。
CDだと絶対手に入らないようなものはアナログで。あと、家にはタンテもミキサーもあって、DJもやったりするし。

iTunes StoreとかBeatportみたいなところで、データで買うことはある?

全くないです。

あれやっぱり、クレジットカードありきなのは大きいカベだよね。学生さんとか、自営業の人にはどうしても敷居が高いと思う。何かしらプリペイドとか、カード持てなくても決済できる手段がないと、広がらないよね。

それとは別に、自分はmp3で音楽を買うのは好きじゃないなと思ってるんです。音質とかは気にしないんですよ、別に。iPodで聴くのも普通に128(kbps)あればいいし。CDで買ったものをmp3で聴くのはいいんですよね。だけどmp3だけで買うのはまだ、自分でも言葉にはし辛いんですけど、抵抗があるというか。納得がいかないんです。

それは、このリレーションズのインタビューの第1回で、TOM-BOYSの2人が語ってくれたような※7、CDの「モノとしての質感」を大事にしたいっていうこと?

そうですね。ジャケットとかも含めて、CDのほうが愛着が沸くっていうことだと思います。

結構、若いリスナーなりDJのほうが「データでいいじゃん」みたいな考え方の人が多いと思っていたんだけど、意外だなぁ。まして、加賀くんのデビューアルバムである"Alive"は、今のところ(2008年9月現在)はダウンロード販売でのみ流通しているわけだよね。

そこは正直なところ物足りない部分もありますが、リリースしていろんな人に聴いてもらうとなったら、やってみるのもいいのかな、とは思ってます。自分の中でもはっきりした答えは出てないんですけど。

例えば、さっきアナログでしか買えないものはアナログで買う、って話があったけど、今はもう結構デジタル専売の曲も多いよね。そういうものの中で欲しいものがあったら、ダウンロードでも買うかな?

たぶん、買うことは買うと思うんですけど、それは本当にどうしても欲しいときだけかもしれないですね。現物があるなら、そっちで欲しい。データはデータだし。触(さわ)れることに意味があると思います。
大事にしているレコードを針とかで傷つけちゃった日には、うわー、ってなりますよね(笑)。mp3だとそういう、物に対しての感覚が希薄になる。ジャケット眺めてるだけで楽しくなったりしません?そういう手にとって触れるリアルさがないと。

この先どうなっていくかは分からないけど、CDという媒体で出続ける限りはCDのほうを買う。

買いますね。レコードもそうであってほしい。

Yousuke Kaga

じゃあちょっと視点を変えて、ここまで買う人の立場で考えてきたけど、作る人の立場に立ってみると、ダウンロード販売のメリットって色々あるよね。流通コストを大きく減らせるし、作ってから売るまでも早くなる。それについてはどう思う?

在庫を抱えたくないっていうのはあるでしょうね。でも、作り手としても、物として残したいという気持ちが大きい。確かに、採算をとるのは相当大変だと思いますけどね。

DJという視点で見た場合はどうかな。今までアナログでやってきたDJが、PCを使ってデジタルなDJスタイルに移行することについては、なにか思うところはある?

あー、どうなんだろう。元のアナログ環境での個性を継承して、うまくデジタルに移行できているならいいんですけど、ガラッと変わるのにはちょっと抵抗あるかなと思います。みんながやってるから、みたいなのは。
クリス・リービングなんか今全部Live※8とかじゃないですか。選曲重視で、ソフトで同期しちゃうっていう。あれはちょっと好きじゃないなと思って。選曲はたしかに重視しますけど、あんまりBPMがカッチリしているのは。

ちょっとアナログ的な揺らぎがあるほうが好きってこと?

とか言って、自分はLiveでやってるんですけど(笑)。すいません、矛盾してて。言い訳がましいんですが、自分のライブのスタイルはまだ確立できてないんです。

でも、メディアに関してはあくまでも現物のほうがいいっていうことだよね。
ところで、例えばCDを買うにしてもネット通販という方法もあるけど、実際にお店に行って選ぶことも込みで楽しいと思う?

そうです。時間とお金さえあればすぐ店に行っちゃうっていう感じだから。特に欲しいものがなくても、行きたいなーとか思って、で、その場で欲しいものを試聴して見つけたりとか。急に思い出して、ああ買わなきゃ、とか。行けば何かしら出会いがある。時々、全く何も知らないでジャケ買いとかもしますし。

ああ、そういう買い方もするんだ。ほんとに手当たり次第聴くんだね。

意地悪く、名前しか書いてないやつとかあるじゃないですか、どんなのか全然分かんないのとか、すーごい気になって(笑)。買ったんだけど、うわぁー、とかあったり、あー良い、とか、そういう。

そっか、ダウンロードだったら、全部分かった上で買うじゃん。これはこういうもんだ、っていう。確かにそこは大きい違いかもしれないね。

そう、「出会い方」が違ってくるじゃないですか。人の出会い方とか、音の出会い方とか。それはありますね。会う前から全部分かっちゃってるっていう、逆にそのせいで、どんどん食わず嫌いになっていく気がします。いろんなものが出るけど、たくさんありすぎて、結局聴くのは同じものになっちゃうのかな、って。

その考え方はたぶん、いろいろ聴いてみたい、っていう、加賀くんの音楽の聴き方が反映されてるんだよ。ダウンロードで「選んで買う」っていう行為は、その考え方の対極にあることかもしれない。その視点はなかったなぁ。

  • ※7 TOM-BOYSの2人が語ってくれたような当インタビュー第1回を参照のこと。
  • ※8 Live『Ableton Live』。オーディオファイルをループ単位で扱うことができるため、アナログのDJに必須のスキルである「ピッチ合わせ」が原理的に必要なくなる。その名の通りライブセット構築や、DAWシーケンサーそのものとしても広く活用されている。

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4. 趣味のこと、音楽のこと

余裕がないとできないんじゃないかな、と

Yousuke Kaga

音楽以外に今やっていることとか、趣味ってある?

今やってること…バイト(笑)。趣味、何だろうなぁ。

最初にビーマニの話があったけど、ゲームとかは?

ゲームはほとんどやってないです。高校入って、もうほとんどやめちゃって。アーケード系は全然弱くて、ゲーセンはビーマニだけでしたね。でも5thあたりでガバが流行って、もうあれ以上は無理だと(笑)。あれをやっとクリアして、終わりでした。その時期には、もう作曲を始めていたので。

暇だな、って時は何して過ごしたりするの?

家にいるときで暇だなって時は、マンガ見たり、音楽聴いたりとか。外にいて暇なときは散歩したりとか。けっこう歩くのは好きです。この前も、日本橋から渋谷まで延々と歩いたりとか。

じゃあもう音楽以外で、これっていうのはあんまりないのかな。聴くことと作ることの2つが大きくて、音楽より優先するものはないっていう感じ。

ないですねぇ。

加賀くんは来年から社会人になるわけだけど、社会人でテクノやってる人に必ず聞くのは、限られた時間のなかでどうやって生活と折り合いをつけていくか、っていうことなんだよね。そういう意味で、音楽で食っていきたいと思ったことはなかった?

ありますよ、正直。ただやっぱり、余裕がないとできないんじゃないかな、と思っていて。お金も時間も。プロとして、それで勝負していくほど自分は覚悟ができていないので、まず働いてお金を貯めて、時間も少なくなるとは思うんですけど、そのへんは使い方を上手くなって、やっていけばいいかなと思って。なれるものならプロになりたい。けど、そこは水面下で。自己満足じゃないですけど、お金があって、自分で作ったものをリリースしていける環境があるなら、最低限それでもいいかなと思ってます。

音楽だけやってると、音楽しかできなくなっちゃうから、その中で行き詰っちゃうと、もう楽しく作れなくなっちゃうんじゃないかな、と思うようになってきて。これは、就職活動を通していろいろ考えた結果ですね。

Yousuke Kagaくんに初めてデモCDをもらったのは、4年前のあるライブイベントでのことでした。当時からクオリティーの高いトラックを多数作っていた彼ですが、テクノに固執せず様々なジャンルの音楽を貪欲に吸収した結果、かえって彼のテクノは幅と深みを増し、無二のオリジナリティを確立しつつあるように思います。

一方で、未知の音楽と出会うためにレコード屋に足を運ぶ、という、ある意味での「音楽的冒険心」が、ダウンロード販売において「選んで買う」行為に馴染まないということにも、初めて気付かされました。

未知の音楽との偶然の出会い、そのフィードバックとしての作曲。まだまだ進化の過程にある彼に、今後より多くの音楽的な「出会い」があることを、ファンの一人として期待したいと思います。

聞き手・写真:R3LAYTIONS(R-9,una)

Yousuke Kaga "Alive" [Fountain Music 008]
Yousuke Kaga名義で初となる商業リリース作品、"Alive"が、BeatportJuno DownloadsKINGBEATwasabeatなどの大手音楽ダウンロード販売サイトにて発売中。テックハウスからハードテクノをクロスオーヴァーする、完全フロア向け全9トラック。
Fountain Musicは国内の新興アンダーグラウンドレーベルで、現在はダウンロード販売に注力しているものの、今後Neutonをディストリビューターとしてアナログリリースなども予定しているとのこと。

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