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ジェイ・クリストフ『ストームダンサー(上)』

日記2016-12-06 10:22

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11月末に刊行された小説『ストームダンサー(上)』を読み終えました。原作は、オーストラリア人のジェイ・クリストフ(Jay Kristoff)氏による"The Lotus War"三部作の一作目 "Stormdancer"(2012年)で、翻訳は我らがダイハードテイルズの本兌有+杉ライカ両氏。二か月連続刊行が予告されており、今月末に早くも下巻が出ます。

ロータス戦記 1 ストームダンサー 上 | ジェイ・クリストフ, toi8, 本兌有+杉ライカ |本 | 通販 | Amazon
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以下、なるべく本筋のネタバレを避けて。

戦闘少女+グリフォン=ストームダンサー

空を舞うスカイシップ群。蒸汽駆動甲冑に身を包んだ侍たちが構えるチェーンソーカタナ。 〈蓮〉排煙で汚染された帝都カイゲン。死滅土(デッドランド)が急速に広がりつつあるシマ列島。シマを支配するショーグン・ヨリトモから、伝説の獣〈雷虎〉(アラシトラ)の捕獲を命じられたユキコは狩猟の旅に出る。

「ニンジャスレイヤー」の 翻訳チームが仕掛ける 和風スチームパンクの傑作!

とても面白かった。当然ながらニンジャスレイヤーとはまたまったく違った読み味で、新鮮な気持ちで楽しめました。上のKADOKAWAによる公式の紹介文の通り、歴史上の日本がモチーフの架空世界「シマ帝国」を舞台とした、和風スチームパンク・ファンタジー。主人公のユキコは16才の少女で、過酷なディストピアである帝国と、その忠実な臣下である父親との葛藤のなかで、伝説上の生物グリフォンと出会う。やがて彼女は「ブルウ」と名付けたそのグリフォンとともに世界に立ち向かっていく、というようなストーリーです。

私は原作を知らなくて、なおかつここに邦訳されている上巻までしか知らないので、今後どうなっていくのかは分かりません。が、動と静でいうとこの本の少なくとも前半部分は「静」です。とにかくディストピアであるシマ帝国、そして首都カイゲンの空気が様々な視点から、手を変え品を変え、緻密に描かれている。時に設定の枝葉を辿ったり、あるいはユキコの過去を行きつ戻りつしながら、ゆったりとしたペースで進んでいくので、初めはじれったく感じるかもしれません。特に、『ニンジャスレイヤー』における情景描写の圧縮率と、物語が展開するスピード感を比べると全然違う。

ただ、中盤から激しい「動」の描写があり、まさしくストーリーが動き始めると、「静」で積み上げてきたものが生きてきます。ある事件に際して、まずありありと情景が目に浮かぶ。そのうえで、この世界ならこうだろう、このキャラクターならこう動くだろう、というのがすとんと腑に落ちる。ここにまずカタルシスがありました。そうなると、次はどうなるんだろうという感じで、先が気になってどんどん読んでしまう。

和風スチームパンク、というのは確かにキャッチーな世界観だけれども、物語全体のモチーフとしてはもっと色々な作品が透けて見えてきます。古今東西、動物と少年少女が心を通わせて世界に挑むエンターテイメントはいろいろありますが、その延長線のひとつという感じ。『もののけ姫』のような、ある種ステレオタイプな人間vs自然の構図もあるし、ディスコミュニケーションを勇気で乗り越える様は『ヒックとドラゴン』のようでもある(ブルウをたびたび猫に喩えるところも似ている)。

あるいは、ユキコとブルウの関係性をフジキドとナラクのそれと捉えると、『ニンジャスレイヤー』との共通点も見えてきます。ユキコあるいはフジキドは、この世ならざる存在とたった一人心を通わせることができるがために、相対する人間たちの犯す罪との間で悩み、それでも人間性を捨てきれず、運命に逆らっていく。その意味で、ニンジャスレイヤー翻訳チームが『ストームダンサー』の翻訳を手がけたというのは、とても自然で、かつ意義あることのように思えます。両者は出会うべくして出会った。

この邦訳作品が発表されたとき、そしてTwitter上で「試し読み」として冒頭のいくつかの章が公開されたとき、翻訳チームは翻訳ができたんだ!という意味不明な、かつ超失礼なコメントがまず浮かびました。Kindleには英語版の原書があって、なおかつ冒頭部分がサンプルとしてダウンロードできます。

Amazon | Stormdancer: The Lotus War: Book One (Lotus War Trilogy) [Kindle edition] by Jay Kristoff | Science Fiction, Fantasy, Mystery & Horror | Kindleストア
https://www.amazon.co.jp/dp/B008XKBUUS/

読み比べてみると、情景描写については原作の通り丁寧に、セリフやアクションに関しては大胆に、とても巧みに訳されているのが分かります。地の文で書かれていることも積極的にセリフ扱いに変更されていて、すっと入っていける。英語ではいまいちよく分からない、キャラクターによる口調の使い分けもいいですね。

原書の表紙では、例によって「濃い」アジア人風のビジュアルであるところのユキコも、toi8さんのイラストはしっくりくる。ティピカルな戦う強い女の子像が単純にかっこいいです。一方で、マサルやカスミといった大人のキャラクターのイラストはいまひとつピンと来ないところもあって、これはソフトな絵柄ゆえにというか。

読んでみて我ながら意外に思ったのは、わりと年齢的に近いせいか、カスミやマサル(ユキコの父親)のほうに感情移入してしまったことです。主人公はあくまでもユキコなので、作中では彼女の物事に対する考えかた…つまりは子供らしい純粋さとか潔癖さというものが、「大人たち」の凝り固まった意見と激しく対立する場面が繰り返し描かれる。私が10代のころにこれを読んでいたら、もしかしたらもっとユキコのほうに過剰に肩入れしてしまい、それぞれのキャラクターに対してまた違う印象を持ったかもしれないなと思いました。

さて、この上巻までを読んだところ、まだまだ物語が動き始めたばかりというイメージなのですが、実際、次の下巻である程度のカタはつくのかな?翻訳チームの杉さんによると、「下巻は、ディストピアなりに割とほのぼのしていた上巻からうってかわって、かなりブラッディです。終盤はそれまでのタメが一気に爆発するカタルシスがあります。」(【日報】「リフォージング」と「ストームダンサー」が好評発売中、そしてレディオで言い忘れたこと|ダイハードテイルズ|note)とのことなので、期待してしまう。

そして『ストームダンサー』の面白いところは、すでに英語圏のレビューがたくさんあることですね(『ニンジャスレイヤー』はなぜないのかという疑問はこの際置いておこう…モーゼズ=サンのプリンターが壊れているからだよ!)。ユキコやブルウ(Buruu)を描いたファンアートもちらほらある。YouTubeなんかを検索すると、女の子が作品の良さを熱く語っている動画レビューが出てくるのも面白いです。こういうヤングアダルト向け?ファンタジー小説って、海外では女性読者が多いのかなあ。

YouTubeには、『ストームダンサー』第一部より第11章「アラシトラ」をテーマにしたサウンドトラックもありました。Jay Kristoff氏本人のアカウントで公開されていて、Twitterでも言及があることから、原作者公認と思われる。素晴らしいです、これ!

「アラシトラ」の章は本作中でも物語が最も盛り上がる場面のひとつなので、この音楽は非常に高まりますね。ちなみにクリストフさん、自ら右腕に「嵐の踊子」のいかついショドーのタトゥーをされていて、そのときの様子もブログに詳細に書いています。スゴイ。タトゥーは作中でも大きな意味を持っています。

11-11-11 | Jay Kristoff - Literary Giant
https://jaykristoff.com/2011/11/29/11-11-11/

これも検索していて見つけた、クリストフ氏が2012年のインタビューで答えている創作観にとても共感したので、こちらも引用してみます。「あなたはハッピーエンドを信じていないというが、これは"Lotus War"三部作のエンディングを示唆しているの?」という質問に答えて曰く。

In my opinion, victory without sacrifice is meaningless. I want my readers to be afraid for the characters they love. There are no certainties in life. No guarantees everyone will live happily ever after. Good fiction is the same.
No-one is safe.

この作品観、良くないですか?私はこのリアリスティックな考えかた好きだし、この『ストームダンサー』(と続く"Kinslayer"と"Endsinger"からなるロータス戦記三部作)において、誰が死に、誰が生き残るかというのが鍵になるのかなという感じはします。とっても楽しみ。
下巻が発売されたら、また読んでレビューを書いてみたいと思います。

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